人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ANA機内誌「翼の王国」と書体の世界

ANA機内誌「翼の王国」と書体の世界_e0130185_2126335.jpg
Nさんから全日空の機内誌「翼の王国」3月号をいただきました(右写真)。
機内誌は航空会社の顔のひとつでもあります。編集経費もかなりかけており、内容、デザインとも優れた出版物です。何よりも旅情を誘う記事、写真にひかれます。「翼の王国」3月号のメーン記事はベトナムでした(左下写真)。水の上で演じる人形劇を中心に取材したレポートです。
私はまだ行ったことはありませんが、いつかは旅をしたい国だけに、じっくり読みました。

機内誌のおもしろさに、書体の使い方もあります。ページをめくり、次の記事に移ると本文の書体が変わります。読む側の気分も変わります。多くの雑誌もこうした工夫をこらしてはいますが、機内誌からは「文章を読んでほしい」という願いがより強く感じます。
そのひとつが書体の使い方ではないか、と思うのです。


ANA機内誌「翼の王国」と書体の世界_e0130185_21263579.jpg
書体と聞いて一般に、なじみがないかもしれません。書道をやっておられる方は頭に浮かぶでしょう。
例えば「明朝体」「ゴチック体」「隷書体」「ポップ体」。これも、太い細い、あるいは角が丸かったり角ばっていたりでそれぞれ細かく書体化され、さらにこれらをベースにどなたがか独自に創作し書体として成立したものもあります。「岩田」などは有名です。

書体にはそれぞれの“表情”があります。
強いインパクトのある「太ゴチック」は見出しによく使われます。こぼれ話に合うのは「細ゴチック」か「丸ゴチック」でしょうか。写真説明で見掛けます。細めの明朝体は決して饒舌ではなくとも静かに切々と語ってくれます。新聞、雑誌の本文に「細明朝」系が多いのはそのせいでしょう。

コンピューターの画面上でデザインが作られるようになって20年近く経ちますが、その前は「写植(写真植字)」、さらにその前は鉛を使った活字で印刷物は刷られていました。

私は「写植」時代に編集記者として20代から30代前半を過ごしました。
新聞は、媒体の性格上、記事が先にあって紙面を組んでいきます。もちろん、新聞レイアウトに独特のルールがあり、「腹切り」といった禁じ手もあります。
一方、雑誌や書籍の編集は多くがレイアウト優先、あるいはデザイナーと編集者が打ち合わせを進めながら誌面を作っていきます。特にビジュアル重視の雑誌では、レイアウトに合わせて文章量も決まります。
ラフレイアウトに始まり、それに沿った写真を撮影し、取材の進行次第で最終的なレイアウトを決めます。その際、とても重要なのが本文や見出し、写真説明といったそれぞれの文字にデザイナーが書体と文字の大きさ(級数・ポイント)を指定する作業です。文字に平体をかける(平べったくする)か、もセンスのひとつです。
書体は、紙面・誌面に表情を与えます。記事にどの書体を使うかは編集者、デザイナーの感覚を問われることでもあります。

パソコンが登場し制作現場に入って、その広まりはあっという間でした。
いちいちデザイナーが指定して、写植屋さんが打ち出し、それを切り貼りして作った「版下」に、さらにカラー印刷の場合は複雑な色指定まで行っていた作業を、パソコン画面の中でまさにボタンひとつでできるようになったからです。写真の取り込みも画面の中でできるようになりました。
マッキントッシュの登場はまさに衝撃でした。
パソコンの処理能力の向上とデザインソフトの進歩で、さらに複雑でかつ効率的に編集制作が進められるようになって、いまに至ります。

確かに便利になりました。
しかし、私がいま、書体の世界を楽しめる「翼の王国」を眺めながら思い出すのは、デザイナーが書体を選び、「M80%、Y20%」などと色指示をしていた、あの手作業の制作現場の活気です。時に、編集者とデザイナーの意見が合わず、ああだのこうだの議論し、色見本を見ながら「やっぱり、こっちの方がいいですよ」とデザイナーにダメ出しをしていた時代です。
職人がいました。
モリサワ、写研といった書体に合わせ、手元を見ずにガチャガチャと勢いよく打ち込んでいく写植屋さんがいました。
レイアウトを見ながら、打ち上がった写植印画紙を左手で三角定規を2枚を、右手にカッターナイフを持って、さくさくと切り別け、デバイダー(コンパスの形で両方が針になっている文具)で印を付けた個所にてきぱきと貼って版下を作っていく人もいました。
印刷会社の方々も色調整を手作業で微妙に行ってくれました。
人と人が熱をもって作っていたように思い出すのは、懐かしさばかりではないように思います。
by gayacoffee | 2012-03-02 22:58 | ガヤマスのつぶやき | Comments(0)

鹿児島発! 生豆を水洗いする自家焙煎コーヒー店の日記


by gayacoffee