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原作の存在があまりに大きい「クライマーズ・ハイ」

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映画「クライマーズ・ハイ」を、定休日に観てきました。
評論をするほど、映画を観ているわけではないので、映画論はいたしません。

映画はどうしても2時間半ほどの枠内で制作しなければいけませんし、興行的に成功するという脚本でなければいけないでしょうから、かなり制限があったと思われ、新聞社の現場、たとえば日々の締め切り、編集・営業・販売という部門のあつれきなど、そして記者の持つ猟犬のような習性等があらかじめ観客に理解されていないと、この映画の緊迫感は十分に伝わらないでしょう。
その点、何年か前にNHKが2夜連続で放映したドラマ「クライマーズ・ハイ」は、時間的にまだ余裕がある分、原作にかなり忠実に作られ、関東のいち地方紙が遭遇した大事故に向き合う新聞社の緊張の約1週間を起点に、「悠木」という出生に陰を持つ遊軍記者の人生葛藤が丁寧に描かれていました。

舞台は群馬県の県紙「北関東新聞社」(架空)。
昭和60年8月12日、夕方。地元選出の中曽根総理が、現職の総理として初めて靖国神社へ公式参拝を行うという大きな話題の中、その日原稿締め切りが近付いてきた午後7時10分すぎ。
部下を持たず「一生一記者」を貫く悠木が、山仲間の販売局員・安西と、魔の山と言われる谷川岳衝立岩に登るため、社を出ようとしていました。

県警キャップの佐山から電話が入ります。悠木が取ります。
「そっちでは騒いでいません?」
「なにが?」
「時事通信のやつが電話でなにか妙なことを言ってたもんで」
「何て言ってた?」
「ジャンボが消えた―そんな風に聞こえたんですが」

悠木の目が、本棚の上に置かれているテレビへ。NHKニュースに速報が流れます。

「日航ジャンボ機レーダーから消える」

犠牲者520人。航空史上最悪の事故となった日航ジャンボ機123便が、長野県との県境・群馬県御巣鷹山に墜落したニュース報道の始まりでした。「全権デスク」に指名された悠木にとって、日航機事故は彼自身の人生の闘いでもありました。
クライマーズ・ハイとは、山を登っていて極限に達したとき恐怖感などがなくなる精神現象です。
くしくもこの日、谷川岳で待ち合わせる予定だった安西は、繁華街でくも膜下で意識不明に。彼が残した「山は下りるために登るのさ」という言葉の意味とは。
そして、「極限」の中で人間はどう判断し生き抜こうとするのか…。
未曾有の事故に向き合う地元新聞社、記者たちの極限。
「自由」に記者暮らしを送っていた遊軍から、突然「全権デスク」に命じられた悠木の極限。
思春期の子を持つ親として苦悩する悠木と安西、そして子供たちの極限。
販売局員として、また社内の派閥抗争の中で休みなしで働いていた安西の極限。

悠木の17年後の「現在」と、当時を行き来しながらストーリーは進みます。


「半落ち」の著者としても有名な原作者・横山秀夫さんは、日航機事故当時、群馬の県紙「上毛新聞」の記者でした。この著作はフィクションとしながらも、新聞記者として事故と向き合った者だけが書けた作品でしょう。
421ページの長編作を、わずか2時間半の映画に凝縮しようとするわけですから、映画でもテレビドラマでも大幅に重要な場面がカットされています。
「原作」でこの作品と出会った私には、映画よりもNHKドラマよりも、原作の方が大きいと感じざるをえません。
by gayacoffee | 2008-08-01 22:00 | ガヤマスのつぶやき | Comments(0)

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