
筋が通らないものは、なにをどうやっても通らないのですが、政治家やその周りの人々が最優先するのは“ムラ社会”の調和のようです。合理的根拠もないのに無理を通そうとするようなずうずうしい輩は、一歩譲ると感謝どころか相手をなめてかかり、もう一歩譲れ、まだまだ譲れと言ってくるのが常套手段です。
地元紙・南日本新聞のきょうの1面に、伊藤・鹿児島県知事が上海派遣の人員を当初の1000人から300人に減らした議案を県議会に再提出することを受け、県議会の最大会派・自民党県議団が総会を開き全員一致で了承した、とあり、きょう開かれる県議会本会議で可決する見通し、とも伝えています(
上写真)。
鹿児島は天下の笑いモノです。伊藤知事、賛成した県議はなぜ「笑いモノ」かすらお分かりにならないでしょう。それほどに笑いモノです。
鹿児島―上海航空路線の搭乗率激減で存続が危ぶまれると伊藤知事は、県費1億1800万円を使って県職員・教職員1000人を全額負担で上海線に往復させようとその費用を含む補正予算案を県議会6月定例会に提案しました。姑息にも「搭乗率を上げるため」とは言わず、「研修」が目的だ言い出し職員給与の減額分を充てるから問題はない、などと目くらましのようなことを繰り返しあきれさせました。「研修」内容も、「国際感覚を養う」という割に観光旅行並の日程。研修内容が明瞭でもなく、気ままに街を歩き過ぎると公安当局から拘束される中国でいかほどの「研修」効果があるか疑問であり、そもそも一時的な搭乗率増加策に過ぎないとの批判が県民の間から続出しました。知事とずぶずぶの県議会議員の多くも、火の粉が自分に降ってきてはかなわぬと思ったか、思わなかったかはさだかではありませんが、疑問の声を挙げるまだましな県議もいて、知事は「全額負担」を「パスポート申請費用などは自己負担」、「県職員・教職員1000人」を「民間人300人を含む県職員・教職員との合計1000人」などと、
議会への配慮をみせ、それでも批判がおさまらないと見た最大会派・自民党県議団が総会を開き“調整”を模索、その間に県議会議長が知事と密室会談を行って、なんと「1000人派遣」を「300人」に減らすという“談合”を行い、自民党県議団はきのうの総会で全会一致で了承したそうです。
知事が譲ったようにみせて、実は「300人派遣」という前例を勝ち取りました。報道によると、県職員と民間人の合わせて300人を7月~9月の3かカ月間、上海に派遣する3400万円の補正予算です。
本来は、上海路線存続のために県税を使うか、否かという議論だったはず。それが、10代のころ偏差値の高かった伊藤知事は条件闘争にすり替え、まんまと県議会ははまった。まぬけです。
そもそも、上海路線の搭乗率が減ったのは誰のせいでもありません。尖閣問題、鳥インフルエンザなどいろいろあったにせよ、経済・文化交流の上で中国の人、鹿児島の人の互いが、あるいは一方でも相手を必要としておれば、搭乗率が下がって回復しないという事態にはならなかったはず。結局、自然淘汰されつつある路線だったのです。
知事は「上海路線が一度廃止されると復活は難しい」と言いますが、違う。需要があれば航路は復活します。だって中国人ももうかることが好きじゃないですか。鹿児島に行く用事ができれば現在就航の東方航空でなくても、別の航空会社に働き掛けてもよい。鹿児島の人間も、上海に行く用事が増えれば路線はまたできます。かつてあった鹿児島―香港線はそもそもが東京発だったかで、途中鹿児島空港に寄ることが航空会社にとって大きなマイナスだった、と聞いたことがあります。事情が違うのです。実際、鹿児島―台北、鹿児島―ソウル両路線は搭乗率が下がっていません。上海線を避けたのです。
利用する客がいないため定期便が次々に欠航している状態です。
伊藤知事は欠航が相次ぐこの事態を聞き、このままでは上海定期便が廃止される、と危機感を覚えた、ということのようですが、乗る人がいなくなっているのに、どうしろというのか…。
そこで伊藤知事が思い付いたのが無理にでも乗せよう、とにかく数字(搭乗率)を上げればいい、手っ取り早く県の職員に業務命令で乗せればいい、という、まるで最近あった証券会社の詐欺事件をほうふつさせるでっちあげの類です。そのお金が伊藤知事のポケットマネーならなんら問題はありません。違う。税金です。伊藤知事自身の腹は痛みません。ここがこずるい官僚ならではの手口です。
「上海線がなくなる」「上海は将来の鹿児島に有望だ」などと、本質をすり替える発言を繰り返し、“ムラ社会”の“旦那衆”は「ノー」と言えなくなりました。
「上海線維持に税金を使うのか?」
「今回税金を投入しても一時的だろう」
“ムラ社会”では、こんなごく当たり前の疑問を口にできなくなったようです。
ともかく県議会は「300人」で手を打つことにしました。
が、問題はこれで終わりか、です。知事もとりあえずという意味の発言をしています。9月まで様子をみるそうです。ということは、9月補正予算でまたも上海派遣の議案を提案する含みがあるということ。
そもそもが、1000人派遣してもその場しのぎの搭乗率アップです。県が予算を出さなくても利用者が増える見込み、根拠、動きがいま少しでもあるなら希望がありましょうが、知事の答弁を新聞報道で読む限り具体策がありません。「とりあえず」「とりあえず」でこれからも補正予算を組み続けるつもりなのでしょう。
きょう付けの南日本新聞には、伊藤知事のこんなコメントが載っています。
報道陣の質問「公費を使う批判や議案の詰め方が甘いという指摘があった」
伊藤知事「これ以外の代替的な政策手段がない。議案の詰め方は大体こういうもの。上海の新しい街を見てもらうことが何よりの成果となる」
驚きますね。伊藤知事は、自ら上海線は税金を使って旅費をタダにしないと乗る人がいない、ほかに路線を救う手がないことを認めているんですね。つまり、いまのままでは今回税金を投入しても搭乗率が上がる手がないのです。緊急避難的だとか言っておられますが、中期的にもない。あれば答弁で堂々と知事が説明しておられるでしょう。
尖閣問題は鳩山元総理が中国に行ってしまってますます混迷を深めるでしょう。中国国内で政府への批判が高まるたびに反日運動が沸き起こります。上海線はますます利用しにくくなりそう。すると9月補正案でまたも計上、となるでしょう。一度認めた議案ゆえ、最大会派・自民党県議団のセンセイらは県知事の案を認めざるを得ません。でなければ、6月で賛成したのはなんだったのか、と言われるからです。
不思議です。伊藤知事はなぜ、ここまで上海線の維持にこだわるのでしょう。私は不思議でたまらない。
で、上海と鹿児島、伊藤知事の関係を調べてみました。
平成22年7月1日に「社団法人鹿児島県特産品協会上海駐在事務所(鹿児島県上海事務所)」が開設しています。伊藤知事の仕事です。
同事務所は「中国の市場情報の収集や市場開拓,市場・流通関係者等との人的ネットワーク構築の中核を担う『上海マーケティングプロデューサー』の活動拠点となる駐在事務所を上海に開設しました」と県のホームページにあります。確か、中国人が日本の都道府県名などを平気で商標登録する問題もあり、またアジア最大の経済市場・中国に食い込みたいという動機もあって事務所開設には一定の意義があったのでしょう。
鹿児島空港に上海直行便が就航したのは平成14年8月です。「中国東方航空と日本航空の共同運航便が週4往復運航し、利用者数も順調に推移してきた」とネットにありました。で、その後の国際問題などで利用者が減って、ついに搭乗率40%を切るレベルになった、とのこと。
上海直行便があるから県の事務所を開設したのか、それとは関係なく国際都市・上海だからなのか…。ん~やはり直行便があるからでしょうね。うがった見方をすると、直行便がなくなると県の事務所も閉鎖の危機です。それは伊藤県政中は避けたい、という意向もありはしないか、などと勘繰ります。
私は、航空機の搭乗率が何割を超えると採算が合うのか知りませんし、搭乗率30%台という数字が採算的に厳しいのかも分かりません。また、時間が経てば鹿児島―上海線を利用する人が増えるのかも見通す知識もありません。
言えるのは、中国と日本の国際問題が直接、この航空路線に影響するということです。
◆南日本新聞きょう付けの社会面。県議会の採決当日になってこんな記事を載せるあたりがマスコミらしい八方美人紙面